アパートの相続対策は贈与と相続どちらが有効?相続税・贈与税の違いと選択基準を解説

Pocket



アパートの相続対策は贈与と相続どちらが有効?相続税・贈与税の違いと選択基準を解説写真

2021.10.12

 
アパート経営をしている人にとって、アパートを子に相続するか生前贈与するかはとても重要な問題です。
 
なぜなら、その承継方法次第で負担する税金の金額が大きく変わったり、アパート経営のノウハウを後世に残すことができなくなったりするからです。
 
 
本記事では、「自宅について贈与か相続のどちらが良いのか」という前回の記事に続き、アパート編をお伝えします。
 
この記事を読むと「もっと早く生前贈与や相続のことを知っていればより多く財産を残せたり、納税資金で困ることがなかったのに」と、後悔しないようにできるでしょう。
 
不動産に関する生前贈与や相続を検討するとき、関連する税制の種類がたくさんありその税制同士が複雑に絡み合うため、対策一つするのでも難易度が高いです。すべての税制ではなく、重要で基本的なポイントを押さえて、できるだけ分かりやすくお伝えします。
 
ポイントは以下の通りです。
 

・アパートを生前贈与することによって、子は相続時の納税資金を蓄えることができたり、アパート経営のノウハウを直接親から引継ぐことができるなどのメリットがある。
 
・アパートを生前贈与するときのポイント (1)アパートの建物だけを生前贈与する(2)サブリース契約をする ⑶負担付贈与にしない
 
・アパートを相続するときのメリットは税金の負担が軽いということ。しかし、子に納税資金が貯まらない、経営ノウハウの継承が難しいなどの留意点もある。

 
 

 アパートの評価額の計算方法

家と電卓
 
あなたが持っているアパートを子に将来承継させる場合、「いったいいくら税金がかかるのか」「生前贈与と相続、どちらがいいのか」と気になりますよね。
 
そこで知っておくべきなのがアパートの贈与税、相続税を計算する際にもちいる相続税評価額です。生前贈与と相続のときの税金のイメージがつきやすくなります。
 
申告時など具体的な贈与税や相続税を求める際は税理士等が行いますが、簡易的で一般的な計算方法がありますので参考にしてみてください。
 
まず押さえておくべきなのは
「生前贈与や相続時の相続税評価額とはアパートの購入価格や建築費用ではない」
「土地と建物で分けて計算する」

ということです。
 
相続税評価額を計算するには、土地は「相続税路線価」、建物は毎年届く固定資産税納税通知書に綴られている課税明細書欄に記載されている「評価額」を用います。
 
 
■関連記事
路線価ってなに?相続の前におさえておきたい路線価の基本と2つのポイント
 
 
アパートは、自宅などと違い、所有者が自らが建物改築する、家族のために利用させるなど自由に利用することができないため、相続税評価上、時価よりも安く評価されます。
 
なぜかというと、アパートなどの貸家は入居者がおり、賃貸借契約で借主の権利が守られており、契約も容易に解除できず退去させるには立ち退き料を支払うなど、貸主は大きな権利上の制約を受けるからです。
 

アパートの簡易的な相続税評価額の求め方
⑴ 土地:土地面積×相続税路線価×(1-20%)
⑵ 建物:固定資産税『評価額』×(1-30%) 

 
このように相続税評価額から、土地は相続税評価額の約▲20%前後、建物は相続税評価額の約▲30%を差し引くことができます。これは、賃貸用の不動産の敷地であるので、貸家建付地や貸家評価として相続税評価額から一定割合を減額できるのです。
 
 

 相続で使える貸付用小規模宅地の特例

アパート
 
相続のときのみに使える「貸付用小規模宅地の特例」というものがあります。
 
親が亡くなり子がアパートを相続して保有し続ける場合は、土地200㎡まで⑴で計算した相続税評価額をなんと更に▲50%引きでき、相続税を抑えることができます。
 

貸家建付地や貸家割合で割引できる割合や、貸付用小規模宅地の特例を適用できる土地面積は別途計算式があり、またそれぞれ適用要件があります。詳しく知りたい方は、国税庁ホームページや、最寄りの税務署、税理士等の専門家に必ずお問い合わせください。
 
アパートを生前贈与や相続させるときにかかる贈与税や相続税は、上記で求めた相続税評価額に税率を乗じて求めることとなります。
 
それぞれの税率等が知りたいときはこちらの記事を参考にしてください。
贈与と相続、財産を多く残すならどちらがいい?相続のプロがポイント解説
 
 

 アパートを生前贈与するときの3つのポイント

ポイント
 
それでは続いて、子にアパートを生前贈与するときのポイントをお伝えします。
 

 アパートの建物だけを生前贈与する

生前贈与するなら建物だけでなく土地もするべきでは?と思われたかもしれません。もちろん、子に土地も建物も生前贈与することは可能ですし、土地建物両方を生前贈与している方もいます。
 
ここで考えたいポイントがあります。『土地の相続税評価額』です。
建物の相続税評価額は、生前贈与でも相続でも同じです。しかし、土地は異なります。
 

≪生前贈与≫
土地面積×相続税路線価×貸家建付地(80%)
 
≪相続≫
土地面積×相続税路線価×貸家建付地(80%)×貸付用小規模宅地の特例(50%)

 
このように、土地は生前贈与より相続の方が相続税評価額が低くなります。つまり、生前贈与するより相続した方が、税負担が軽くなるということです。
 

 サブリースをする

相続のときには、貸付用小規模宅地の特例が使えることで土地の相続税評価額を低くできます。
 
ここで注意したいことは、建物のみを生前贈与した後から相続発生までに、賃借人(建物を借りている人)が変わってしまうと、相続のときにこの貸付用小規模宅地の特例が使えなくなってしまうことです。
 
土地の評価額が低くできず、相続税の負担が多くなってしまいます。これではもったいないですよね。
 
そこでサブリース契約(家賃保証)を使うと、この賃借人の入替えによる問題を解決することができます。
 
一般的な契約では、オーナー(所有者)と賃借人との賃貸借契約を結びます。
 
サブリース契約とは、まずオーナー(所有者)とサブリース会社が賃貸借契約を結びます。そして、サブリース会社と賃借人との転貸借契約を結ぶという形態になります。
 

 
オーナー(所有者)からみた賃借人はサブリース会社です。ですので、サブリース会社と契約が続く限り賃借人が入れ替わっても、貸付用小規模宅地の特例を使えます。もちろん、この他の貸付用小規模宅地の特例の適用要件も満たしていることが必要です。
 

 負担付き贈与にしない

建物を贈与するときの評価額は、相続税評価額とお伝えしましたが、もう一つ注意しておきたいことがあります。それは評価額を『時価』としないことです。
 
親はアパートの賃借人から敷金等を預かっています。
仮に建物のみ生前贈与したら、子は自らの財布から敷金を賃借人に返さなければならなくなるので、『負担付き贈与』となります。
 
負担付贈与とは、贈与を受ける受贈者側(子)に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。 アパート建物部分のみを生前贈与すると受贈者側が敷金返還の負担を受けることから負担付贈与となるのです。
 
負担付き贈与となると、贈与税を計算するときの評価額は、相続税評価額ではなく、実際に売れる価格(時価)としなけなければなりません。
 
アパートの相続税評価額と時価の価格の違いを端的に言うと、時価を1億円とした場合、相続税評価額は3,000万円くらいです。つまり、負担付き贈与となると、相続税評価額3,000万円を基準に贈与税を計算するのではなく、時価1億円を基準に贈与税の計算をすることになるため贈与税の負担がとても大きくなるのです。
 
負担付き贈与とさせないためには、敷金等と同額の現預金も一緒に生前贈与することが必要です。賃借人に返す敷金等=現預金ですから、負担がない贈与とみなされます。
 
敷金以外には、アパートローンも当てはまります。ローン返済後か、ローン残債と同額の現預金を一緒に贈与することが必要でしょう。
 
サブリース(家賃保証)やサブリース会社のこと、生前贈与の前後どちらのタイミングでサブリースを検討したほうがいいのかなどについて知りたい方は、弊社までお問い合わせください。必要に応じて税理士等の専門家と一緒にご回答いたします。
 
 

 アパートを生前贈与するメリットと留意点


 
アパートの建物を生前贈与したときのメリットと留意点を親目線子目線でお伝えします。
 

 賃料収入を子が受け取る

メリット
親目線:賃料収入が子に移転し財産が増えないため、つまり、相続財産が増えないということなので、結果として相続税が低くなる
 
子目線:賃料収入が入るので、相続時の納税資金を貯められる

 

留意点
親目線:生前贈与してもいいのか、老後の必要資金を計算する。
 
子目線:賃料収入が入るので所得税率や税負担額など確認しておく。
生前贈与して3年以内に相続が発生すると贈与した分は相続税を計算するときに持ち戻しとなる。(つまり相続財産となる。)ただし贈与税を支払っていればその支払った贈与税は相続税から控除されます。

 

 アパート経営方法の継承

メリット
親目線:空室対策や関係事業者との引継ぎなど経営ノウハウを伝えられる。
 
子目線:親と一緒に学べる。
相続で突然引き継ぐと分からないことも多く困ることがある。

 

留意点
親目線:認知症等を発症すると子に教えられなくなる。
 
子目線:自分がどこまで経営に携わるのか、外部委託するのかなど検討する必要がある。

 
建物を生前贈与する方の多くは、賃料収入を親から子に移転させることが目的です。現実的には負担付き贈与とならないタイミング、アパートローンを完済したアパートが生前贈与の検討対象となるでしょう。
 
■関連記事
相続税の節税効果は最初だけ?「借金してアパ―ト経営」の相続税対策効果を徹底検証
 

 アパートを相続するメリットや留意点

メリット
 
相続で渡すメリットは、贈与で渡すよりも税率が低いという点が挙げられるでしょう。
 

 
単純比較ですが、贈与よりも相続の方が基礎控除や税率面で有利であると考えられますね。
 
一方、留意点は、子に『納税資金』が貯まらないこと、親に賃料収入が貯まり続け『相続税が上がる』ことや、子がアパートオーナーではないので経営ノウハウの継承が難しいことが挙げられます。
 
生前贈与を検討する際は、贈与税と相続税の税率等で単純比較せず、賃料収入が移転することでの効果や、納税財源などについても相続と比較検証することが必要です。
 
プロサーチ株式会社では、アパートを賢く生前贈与する、相続させる方法(税理士と連携)などの無料の診断や相談が可能です。
 
どんな対策が必要か、何ができるのかを気になる方はぜひこちらから無料診断をお試しください。
 

 

 

 まとめ

 
今回のポイントは以下の通りです。
 

・アパートを生前贈与することによって、子は相続時の納税資金を蓄えることができたり、アパート経営のノウハウを直接親から引継ぐことができるなどのメリットがある。
 
・アパートを生前贈与するときのポイント (1)アパートの建物だけを生前贈与する(2)サブリース契約をする (3)負担付贈与にしない
 
・アパートを相続するときのメリットは税金の負担が軽いということ。しかし、子に納税資金が貯まらない、経営ノウハウの継承が難しいなどの留意点もある。

 
アパートを子に承継させるには、生前贈与と相続があります。できるだけ税負担を減らして承継させたい!と、一度は考えたことあるのではないでしょうか。
 
自身の老後資金も気になる、子がアパート経営できるのかも不安。色々なことを考え出してしまい、結果として何も行動に移せていない方をこれまで数多くお会いしてきました。
 
アパートの相続税評価額や時価、アパート経営ノウハウ、老後資金の確保、生前贈与と相続の比較検証など、お客様に代わり計算したり考えるのが不動産と相続に精通した専門家です。
 
アパートを所有していて子に承継させる予定がある。
アパートローンが完済、数年以内に完済する
 
このような方は一度、不動産相続に精通した専門家に相談することを推奨します。
 
 

 家族信託オンラインセミナー開催!


 
もし本人(親)が認知症になってしまったら、現預金の引き出しや、実家を売却するなどの行為が自由にできなくなるのはご存知でしたか?
 
例えば、親の預金口座での生活費の管理ができない、老人ホームへの入所金を確保するため 不動産を売却しようと思ってもできないなど、計画していた今後の生活に支障がでてしまうのです。
 
しかし、認知症になっても計画したとおり安心して財産管理ができ、そして子どもに資金面や財産管理などでの負担を軽くできる対策があります。
 
それが、「家族信託」です。
 
家族で財産を管理する「家族信託」という対策方法をこの機会にぜひ知ってほしいと思います。
 

< お伝えする内容 >
・家族信託とは何か?制度と仕組みを丁寧に解説!
・後見制度との違い ~メリットや留意点~
・実家や空き家、アパートなどの実例から家族信託を知る
・家族信託で財産管理に成功する家族/失敗する家族 ・・・など
 
< ぜひ聞いていただきたい方 >
・本人(親)が70歳以上で、体調面に不安がある方
・自分や家族のために財産管理をしっかり行っていきたい方
・財産管理をそろそろ子どもに任せたい(任せて欲しい)と思っている方
・相続対策を安心して確実に進めたい方
 

 
 

この記事の監修
プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)

20歳のとき母方の祖父母を火事で亡くし、祖父祖母の相続では兄妹間の争族に発展。『またいつか』ではなく『すぐにでも』行動しなければならないことや、どれだけ仲の良い兄妹でも揉めることを痛感。会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から評価を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。

 

Pocket

無料冊子ダウンロード
無料冊子ダウンロード