路線価否定判決から見る今後の相続対策で検討すべきポイント

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路線価否定判決から見る今後の相続対策で検討すべきポイント写真

2019年11月19日付の日本経済新聞から、このような見出しが目に飛び込んできました。
 

~「路線価」否定判決に波紋~


この記事を読まれた方も多いと思いますが、東京地方裁判所が、相続税路線価(以下、「路線価」という)に基づく相続財産の評価を「不適切」と否定し、不動産鑑定による評価が妥当とした判決です。
発表以来、相続や不動産に関わる専門家の間では、大きな話題になっています。
 
そもそも土地の相続税評価は路線価評価でいいのでは?と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、それは間違いではありません。
正確には、不動産の相続税評価はもともと「時価評価」が原則とされています。しかし、一般的に不動産の時価は、需供関係や評価する人によって価格が大きく変わるため、簡単に割り出せるものではありません。
簡単に割り出せないものを評価するのは大変ですから、国税庁から毎年7月に発表される「路線価」を『時価とみなして』評価する、としているのです。
 

路線価評価が否定された理由

しかし今回のケースでは、なぜこの路線価評価が否定されることになったのでしょうか。
 
 
■相続税対策をやりすぎた
今回、被相続人が購入した不動産は以下の通りです。

(※日本経済新聞社資料参照)
 
購入したマンション2棟合わせての購入額は約13億8700万円ですが、路線価での相続税評価は約3憶3000万円と、時価と評価に実に約4倍の開きがあります。
これだけ見るとやり過ぎでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、都心の一等地などでは路線価と時価の乖離が大きいところも珍しくはなく、全く考えられない評価額ではありません。
 
しかし、今回注目すべきポイントして、不動産購入時に借り入れも行っており、結果、掛かるはずの相続税を“ゼロ”として申告したことにあります。これを国税庁側は見逃せなかったのでしょう。
 
 
■不動産購入のタイミング、目的
今回の件で、被相続人は不動産を購入してから2年半~3年半後に亡くなられています。
亡くなるタイミングは誰にもわかりませんが、比較的短期間であったことや購入時にはすでに90代という高齢であったため、相続税を引き下げる目的での購入意図が強かったと国税庁に認識されたのではないでしょうか。
 
相続税節税対策自体は違法でもない一般的なものですから、やはり相続税をゼロにするほどの過度な対策に警笛を鳴らしたということでしょう。
 
 
過去の似たような事例で、タワーマンション購入による節税(相続税申告)が否認された例(否認事例(平成 23 年7月1日裁決))がありました。
子が親名義で購入し、その後すぐに相続が発生。被相続人である親が亡くなられてから約4ヶ月後には子がマンションの売却を依頼する契約を締結し、購入から1年も経たずに売却した事案です。
 
様々な論点があるようですが、これもやはり『相続税租税回避目的』として否認されました。
※気になる方は「平成23年7月1日裁決」とインターネットで検索してみてください。
 

今後、検討すべきポイント


1.極端にしない:なにごとも、ほどほどが良い
2.駆け込まない:健康で元気なうちから、じっくり時間をかけて
3.目的を明確に:節税は目的ではなく手段、何を叶えたいか目的を明確に


今回の判決により、国税庁の『明らかな相続税租税回避目的には厳しく立ち向かう』という姿勢が見えました。
相続税対策で物件を購入して、相続後にすぐ売るというやり方は通用しなくなるかもしれないということです。
 
これから相続対策を考える方、既に実行している方も、本人、家族、誰がどのように使うため?生活をより豊かにしたいため?など目的を明確にして、大切な資産をどのように活用したり承継したりするか、元気で健康なうちからじっくりと対策実行していくことが必要と言えるでしょう。
 
その他、この判決で気になった点をお伝えいたします。
 
 
■家族信託への影響
一見、今回の事案とは関係のないように見える家族信託ですが、注意すべき点はあります。
 
例えば、委託者が認知症等によって意思判断能力を喪失している状態で、受託者の意思により不動産の購入や組み換えを行う場合です。
もしそれが受託者の意思で行う相続対策を目的とした取引であった場合でも、信託の仕組み上、委託者の意思判断能力や健康状態に関係なく取引は可能ですが、受託者による各種対策が明らかな租税回避目的であるとして、路線価評価が否定される可能性が出てきました。
 
専門家は家族信託を組成する際に、不動産の購入や組み換えに対する委託者の目的を明記するなど、受託者の偏った相続税対策ではないことをあらかじめ示しておいた方が良いかもしれません。
 
 
■不動産マーケットへの影響
今回の判決によって、不動産を使った相続税対策を考えている方には『待った』がかかったことでしょう。
資産家の多くは、対策のために不動産購入等を行いますから、今後、国税庁側から何かしら明確な判断基準が出ない限り、購入が慎重になったり、見送ったりする方が増えると予想されます。
 
買い手が少なくなると価格は下がりマーケットは冷え込みます。今回のこの判決が与える影響は大きく、相続税のみならず不動産マーケットにまで影を落としかねません。
 

遺産相続コンシェルジュより

今回のニュースを受けて、これまで当たり前のように紹介していた路線価評価が絶対的なものではなくなりました。
今後、相続対策の提案をする際は、その対策が否定されるリスクについてきちんと説明が出来るようにしなければ、後々トラブルになるかもしれません。
 
プロサーチでは、相続対策をされるお客様のご不安がないように、対策の効果やリスクについてもわかりやすくご説明をしておりますので、お気軽にご相談いただけましたら幸いです。(記:友重孝一朗)
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