どうする?相続した負の不動産の行方‐放置せずに「処分の選択肢」を考える

更新 2025.6.20
「山林や別荘を持っているけど、売れないし貸せない。子供に負担をかけたくないけれど、どうしたらいいんだろう…」
そんな悩みをお持ちの方が増えています。
売れず・貸せず・使えないまま残される不動産、いわゆる「負動産」。手放したくても処分方法がわからず、固定資産税や管理費を払い続けているケースは少なくありません。
今回は、令和5年に始まった【相続土地国庫帰属制度】や、民間の【引取サービス】についてご紹介します。いざという時のために、今から準備できることを一緒に確認しましょう。
今回のポイントは以下の通りです。
・『相続土地の国庫帰属制度』には、「建物がないこと」や「土地の境界を明示すること」など一定の条件がある。親が元気な今のうちから土地を整備することが重要。
・売れない貸せない不動産を処分するには、国の他に相続放棄と『民間業者による引き取り』がある。
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『相続土地の国庫帰属制度』とは
この制度は、不要な土地を国に引き取ってもらうことができる仕組みです。
令和5年4月27日からスタートし、相続した土地に限って、一定の条件と費用を支払えば国に返すことができます。
ただし、すべての土地が対象になるわけではありません。
この制度は、所有者不明土地の問題を解決するためであり、どんな土地でもいいというわけではありません。
相続土地国庫帰属制度の概略説明はこちら(LandIssues株式会社作成)
所有者不明土地があることによって、一例ですが下記のような問題が起こります。
・土地を有効活用したいが所有者に連絡が取れない
・土地所有者を探すコストがかさむことによって財政が圧迫される
『相続土地の国庫帰属制度』は、すべての財産を放棄しなければならない相続放棄制度とは異なり、処分したい土地だけを国に引き取ってもらえます。
つまり、相続した他の資産まで手放す必要はないのです。
制度の概要
本制度の主な概要は次の通りです。
施行日
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令和5年4月27日 |
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対象不動産
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・土地のみ ・建物は引き取らない ・施行前に相続した土地も引き取り対象 |
申請ができる人
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・相続や遺贈で取得した相続人 ・相続等で取得した共有者全員で申請する ・相続等で取得した人と売買等で取得した人とが 混在していてもその全員で申請すれば可能 |
費用
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・審査手数料14,000円(土地1筆あたり) ・土地管理費相当額の費用(20万円から※本記事で後述) |
引き取れない土地
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土地境界が不明な土地など |
国が引き取れない土地
国が引き取らない土地として次の10条件を挙げています。
※法務省資料を基に弊社作成。
※上記資料は「相続土地国庫帰属法施行令について(法務省)」などから一部抜粋しています。
上記の他に、NG項目などが追加されています。
別荘地で管理費の支払いがある土地はNG、山林や崖地、私道や接道がない土地には厳しい条件があります。
国が管理するに際して通行や使用の妨げがある、第三者の身体や財産に対して損害を与える可能性があるような土地は引き取らない方針と考えてよさそうです。
国に引き取ってもらうためには、建物がある場合は解体して更地にし、境界が明らかではないときは土地測量をするなどで、土地境界がどこなのか調査しなければなりません。
条件を満たすための整備にかかる費用の一例をお話ししましょう。
建物解体費:約180万円〜(木造3LDKの場合)
測量費:約30〜100万円(立地・面積による)
申請代行料:30万円~(弁護士、司法書士、行政書士へ依頼)
審査手数料:1筆14,000円
国に支払う負担金:約60万円〜100万円(面積・地域で異なる)
【例】市街化区域の宅地300㎡の場合:負担金は約101万円
このように、「制度はあるが整備には手間とお金がかかる」というのが実情です。
なお、山林などの測量がしにくい、広大な土地になると100万円以上かかるでしょう。
当該制度を使うにしても、土地整備だけで相当費用がかかりそうですね。
引き取る手続きと負担金
手続き
法務省から、申請から負担金納付までのフローが開示されています。
審査フローは以下をご参照ください。


※法務省 相続土地国庫帰属制度ホームページより抜粋
この手続きにどのくらいの時間を要するかは、
詳しい専門家と話をしている限り、書類や現地調査を行い結果通知まで半年から1年はかかるのではないかとのことでした。
今後、徐々に分かってくることでしょう。
負担金
国が土地を引き取ってくれる制度と言っても、『無料』というわけではありません。


※上記資料は「相続土地国庫帰属法施行令について(法務省)」などから一部抜粋しています。
※負担金額の自動計算シート(Excelファイル)はこちら(法務省作成)
負担金計算例
引き取り時の負担金について、例を挙げて計算してみましょう。
【市街化地域にある宅地 土地面積300㎡】
負担金は、200㎡超400㎡以下ですから、(300㎡×2,250円/㎡)+343,000円の計算式を当てはめます。
計算すると、1,018,000円です。
【山林 土地面積2,000㎡】
負担金は、1,500㎡超3,000㎡以下ですから、(2,000㎡×17円/㎡)+248,000円の計算式を当てはめます。
計算すると、588,000円です。
国に対して支払う負担金は、土地の種別やエリア、管理状況によって変わるようですから、ちゃんと調べておきたいですね。
また、この他に審査手数料、さらに前述した土地境界確定費用や、建物があれば解体費用もかかります。
『相続土地の国庫帰属制度』を利用するために
土地境界を明らかにすることが必須だったり、管理が大変な土地はNGだったりするなど、「実際に引き取ってくれる土地なんてあるのか?」と思うくらい相当厳しいのが実際のところでしょう。
専門家の間でも「条件を整備するための費用や時間がかかりすぎる」という声があります。
制度スタート時の法務局への相談件数は15,000件ほどでしたが、2年経った令和7年5月末の申請総数は3,700件ほどですから、検討するのをやめている方も多くいるのも実情でしょう。
売れない貸せない土地は、前述の引き取ってもらえない条件①~⑩に当てはまっていることが多く、将来的に制度の利用検討する方は、今のうちから、『相続土地の国庫帰属を申請できる状態』まで土地を整備しましょう。
今から整備しておくこと
そのためには、どのようなことをしなければならないのでしょうか。
2) 土地境界に関する資料を収集する、測量しておく
3) 賃貸を止める(資材置き場や駐車場など)
4) 土壌汚染や地中埋設物の有無を調査する(地歴などの情報収集)
5) 隣地との揉め事を解決
この他にも、隣地との紛争がない状態ということから、樹木の枝葉やブロック塀などの(被)越境物の解消なども必要でしょう。
また、引き取り条件の土地境界を明らかにするという項目について、宅地なら測りようがありますが、山林となると土地面積は広大ですし、その労力や費用は大変なものです。
国は、まっさらで綺麗な土地にしなければ引き取ってくれません。
整備には相当な時間や労力を要しますから、今から準備を始めておく必要があります。
不要な不動産の処分方法
「自分も使わない」「売れない・貸せない」「相続もしたくない」という不要な不動産は、これまで説明してきた『相続土地の国庫帰属制度』以外に、主に次の2つの対応策があります。
(なお、地方自治体や財団などへの寄付という方法もありますが、とくに地方自治体が不動産の寄付を受け付けることが殆どないため、本記事では割愛します)
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期限
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かかる費用
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留意点
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相続放棄
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相続開始3ヶ月以内
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印紙等3,000円
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遺産すべて放棄
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事業者による引き取り
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いつでも
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引取料15万円~
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信ぴょう性、有料
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以下に詳しく解説いたします。
相続放棄
親の遺産を相続したくないとき、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に裁判所に相続の放棄の申述をする必要があります。
この手続きをしない限り、放棄することはできません。
参考:相続の放棄の申述(裁判所HP)
・相続放棄者は最初から相続人ではなかったとして、他の相続人間で遺産分割協議する
被相続人の財産を相続時に放棄できる制度ですが、不要な不動産を含む被相続人全ての財産を放棄することとなります。
不要な不動産以外にどのような財産があるのかしっかり調査した上で、この制度を利用するのかを慎重に判断しましょう。
事業者による不要不動産の引き取り
不動産会社などが、不要な土地・建物を有料で引き取るサービスを提供しています。
国の制度と違って、「建物があってもOK」「測量不要」など柔軟な対応が特徴です。
引き取り料金
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土地1筆15万円、同エリアの場合は2筆以降5万円 建物が使える場合は50万円/棟 |
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引き取れる不動産
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全国の土地、建物、共有持分も可能 |
引き取れない不動産
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農業のみの利用に制限された土地(農地転用不可)、抵当権付き |
土地の境界明示
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不要 |
費用の支払い時期
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所有権移転登記後 |
《参考》
引き取り会社 LandIssues株式会社ホームページ
事業説明 https://land-issue.com/unwanted-real-estate/
このほか、固定資産税や別荘管理費等がある場合は、20年分超がかかるなどの条件があります。
「詳しく話が聞きたい」、「見積もりを作ってほしい」などのご希望や、「相続土地の国庫帰属制度とどちらがいいのか知りたい」というご質問がございましたら、プロサーチ株式会社までご連絡ください。
【引き取り会社等を装った詐欺に注意!】
売れない・貸せないと悩んでいる高齢の不動産所有者を狙った詐欺犯罪が起こっています。
不動産ブローカーなどと名乗る者から、
「買い手がいるから、調査料をください」
「この土地を欲しい人が測量をしたいと言っているので、測量費をください」
といった連絡が来て、先にお金を支払ったら最後、そのまま連絡が取れなくなることがあります。
不動産の所有者に先にお金を要求してくる業者の場合は、売れなくて困っている方の弱みに付け込んだ詐欺である可能性が高いので、くれぐれもご注意ください。
先払いは詐欺払い。です。
「こういう業者から先に費用を支払えという連絡があったけどどうしたらいいのか分からない…」といったご不安やお悩みがある場合は、すぐにプロサーチもしくは信頼できる弁護士などの専門家にご連絡ください。
無料相談受付中
本記事をお読みいただいた方へ、プロサーチ株式会社では、売れない・貸せないといった土地の調査、価格査定、売買、処分の方法の検討から実行までサポートをすることが可能です。
『相続土地の国庫帰属制度』に関するご相談、引き取りサービス事業者の紹介なども承っておりますので、無料相談をしたい方はぜひお問い合わせください。
まとめ
今回のポイントは以下の通りです。
・『相続土地の国庫帰属制度』には、「建物がないこと」や「土地の境界を明示すること」など一定の条件がある。親が元気な今のうちから土地を整備することが重要。
・売れない貸せない不動産を処分するには、国の他に相続放棄と『民間業者による引き取り』がある。
本記事では、『相続土地の国庫帰属制度』や、不要な不動産の引き取りサービスなどのことをお伝えしました。
ご家族にとって一番よい選択肢を選べるように、たとえ不要な不動産であっても放置したままにするのではなく、ちゃんと整備して処分の選択肢を増やしていきましょう。
そのためには、相続にも詳しい不動産の専門家にご相談されることをおすすめします。
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現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。
