借地権売却の思わぬトラブル!もしものときでも安心できる事前対策とは?

Pocket



借地権売却の思わぬトラブル!もしものときでも安心できる事前対策とは?写真

プロサーチでは、不動産相続対策を進めていく中で借地や底地に関わる案件に携わることも数多くあり、借地や底地の評価から地主・借地人との交渉、それに伴う家族信託を含めた提案まで幅広く業務を行っている。
 
そのような中で、以前、弊社が講師を務めた「借地権相続セミナー」に参加した親子が、後日弊社を訪ねてきた。
話を聴くと、今住んでいる自宅(借地権)が古くなってきたため住み替えを希望しており、自宅を売却したいとのことだった。
 

<お客様概要>
 
■家族背景:母(83歳)、長男(58歳)、長女(55歳)
      ※相談者は母と長男
      ※父は3年前に他界、長男は独身で母親と同居中
      ※母は年々身体が弱くなってきており、子供たちも心配している
■主な資産:自宅(借地権 築35年)、現金500万円、アパート(所有権)
      ※自宅建物は母親名義(母と長男は自宅に同居)
      ※自宅やアパートの管理は、母親の代わりに長男が行っている
■目的  :自宅(借地権)を売却し、新しい家へ住み替える
 

借地権の売却をする際にまず確認すること

お母様の状況を考えるとなるべく早く売却活動を進めたいところだが、ご相談後、私はまず借地権が設定された不動産を売却する際に大切なことは何かを整理してみた。
 

①借地権の対象となっている物件はどんな物件か?

 ⇒例えば建物の種類(戸建てやアパート等)や状態(築年数や建物の傷み具合等)など。
  ※これにより購入対象者が変わってくる。

②土地賃貸借契約書の内容はどのようなものか?

 ⇒地代や契約期間の確認。その他承諾や更新料に関わる条文も要チェック。
  ※維持管理のコスト等、必要経費がわかるため売買価格の査定には必須。

③底地の所有者(地主)はどんな人か?関係は良好か?

 ⇒売却には地主の承諾(譲渡承諾等)が必要となるため。
  ※過去に揉めた経緯がある場合や、関係が疎遠になっているときの進め方は要注意。

④借地に関わる承諾やその費用について、具体的な取り決めがされているか?

 ⇒通常、売却時には「譲渡承諾」、建替え・リフォーム時には「建替え承諾」、融資を受ける際には「融資承諾」が必要となり、あわせて承諾料を支払うことがほとんどである。
  ※これがきちんと決まっていないと、買主は借地権を購入する際の費用負担がわからないため、価格で調整せざるを得なくなり、売却価格に影響が出る。

 
お客様にこれらのことを伝えると、「もっと簡単に売却できると思ったわ。色々とやることがあるのね。友重さん、私たちでは難しいから地主さんへの対応も含めて売却できるようにお願いできないかしら」とご依頼を頂戴した。
だが今回は、上記の③、④で非常に苦労し、結果的にはご依頼を受けてから売却まで1年半もの時間を要してしまう案件となったのである。
 

なぜ依頼を受けてから売却までに時間を要したのか?

底地所有者、いわゆる地主が遺産分割で揉めており、相続人同士全く意思疎通が取れていなかったことで、承諾等の意思決定が出来なかったからである。
 

【地主側の状態と、地主との関係】
 
 ・相続人である子供3人が遺産分割で5年前から揉めており、共有状態であった。
 ・相談者も、先代の地主と8年前に地代値上げで揉めて以来、地主とは交流無し。
 

まず私は早速、地主3人から譲渡の承諾を得るべく行動した。
 
3人全員、対象物件の近くに住んでいて、家も3軒並んで建っている(正直これは助かった…)。
3人のうちの1人に話を聞けたが、「ここ数年、他の兄弟とは話もしていないし何をしているかわからない。恐らく住んでいるとは思うが」といった状態。結局、他の2人に関しては、顔を見ることすらままならなかった。
(インターホンを押しても出ない、内容証明も届かない、出会えても門前払い)
 
このような状態が3ヶ月続き、お客様からも不安の声が上がった。
「困ったわね…。私が元気なうちに解決できればいいけど、このまま売れなくなってしまうのかしら。他にいい方法はないのでしょうか」
 
 
もし、本当に地主の承諾が取れなかった場合はどうなるのだろうか?
 
借地権は、基本的には地主の承諾がないと勝手に売却することは出来ない。
だがそれでは借地人も困ってしまうので、一つの手段として、「借地非訟事件」による承諾の取得がある。簡単に言うと裁判をして、地主の代わりに裁判所から承諾を取得するということだ。
これにより、ほとんどのケースで地主からの承諾を取得することが出来るが、実行するにあたっては以下のことに注意が必要だ。
 

■承諾をもらうまでに時間が掛かる

 ⇒裁判所の判決が出るまで、スムーズに進んで半年。1年以上かかるケースも珍しくない。

■裁判費用が掛かる

 ⇒今回のケースでは、弁護士費用として1回100万円ほど掛かった。

■1回の借地非訟事件で複数の承諾が取れない

 ⇒通常、1回の裁判で1つの承諾しか取得できないため、「譲渡承諾と建替え承諾」といった複数の承諾が必要な場合、その承諾毎に裁判を行わなければならない。(更に時間と費用が掛かる)
  ※複数の承諾が必要な場合、実務的には1回の裁判中に、水面下に相対で地主と交渉することが多い。

■地主との関係が悪化する可能性が高い

 ⇒承諾は取得できても裁判により関係性が悪化する可能性が高いので、次の購入者と地主との関係にも影響しやすい。(揉めている物件になるため売買代金の減額要因にもなりやすい)
 
今回は、依頼者と相談して、このまま進まない不安を抱えるより確実に前に進みたいという想いを優先し、借地非訟事件で進めることになった。
 

借地非訟を進める上で、リスクヘッジしておくこと

借地非訟には時間が掛かるため、お母様の体調や意思判断能力といった部分に気を付けるべきだと私は考えた。もしも借地非訟をしている間にお母様が意思判断のできない状態になってしまうと、裁判で承諾は取得できても売買をすることが出来なくなるため、せっかく取得した承諾が無駄になるだけでなく、住み替え先の不動産の購入も難しくなってしまう。
 
そこで私が提案したのが「家族信託」だ。
 
お母様を委託者兼受益者、長男を受託者にすることで、万一認知症などでお母様の判断能力が無くなっても、長男の判断で借地権の売却や住み替え先の購入を進めることが出来る。
今回の目的は、自宅を確実に売却し古い自宅の維持管理の不安を解消すること、またお母様の体でも住みやすい新たな住居を確保すること。これを叶えるために、まずは「家族信託」を締結し、借地非訟を行うことになった。
裁判中、地主が出廷してこないなどのトラブルもあり、最終的に譲渡承諾が出たのは1年後だった。その後の住み替えもうまくいき、現在も親子で元気に暮らしている。
 
お母様の体調は、住み替えまでの間に一時的な入院はあったものの、幸いにも判断能力を喪失してしまうようなことにはならなかった。
後日、お母様や長男に話を聞くと、「家族信託」を締結しておいたおかげで安心して進められ、時間はかかったが不安はなかったと仰っていた。
 

【遺産相続コンシェルジュからのアドバイス】

 

今回の件に限らず、不動産や相続の問題解決には様々なトラブルが付いて回ってくるため、一朝一夕には解決せずに長期化するケースも多いのです。
長期化しそうな不動産問題・相続問題の解決を目指していく中で、目的を確実に達成するために、「家族信託」は大きな手段となり得ることを改めて実感しました。
実際に「家族信託」は、理想の未来を実現するための手段の一つとして、これまでも多くのお客様の役に立っています。
弊社では今年も「家族信託」を解決手段の一つとして持ちながら、お客様の不動産・相続問題の解決に取り組んでいきたいと考えています。
 
少しでも多くのお客様に家族信託を知っていただくために、家族信託に精通されている宮田総合法務事務所の宮田先生(一般社団法人家族信託普及協会・代表理事)と一緒に「家族信託」をテーマにした一般向けセミナーを4月3日(火)に開催いたしますので、ご興味がある方は下記のリンク先をご確認いただき、ぜひお申し込みを!残席僅かです!(記:友重孝一朗)

Pocket

無料冊子ダウンロード
無料冊子ダウンロード