お客様が相続した不動産が『心理的瑕疵物件』だったら?相続の専門家なら絶対に知っておきたい注意点

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2021.10.29

 
相続の専門家である皆様は、顧客にご高齢の方も多いことと思います。
例えばお客様やそのご家族が、ご病気で入院中であったり、介護施設等に入所中であったりという場合でなければ、ご自宅でお亡くなりになるケースも当然出てくるでしょう。
 
人はいつかその時を迎えるものですが、その時期や原因は様々ですよね。
遺されたご家族からのご相談で特に多いのは、「家族が自宅で亡くなったが、不動産価格が大きく下がる“事故物件”として扱われてしまうのか?」というものです。
 
今回は、『被相続人様がご自宅でお亡くなりになった』ときに不動産査定や売却のご相談を受けた実例を基に、遺産分割や売却等の際の注意点を、お客様からご相談を受けたときの対応ポイントとあわせてお伝えいたします。
これまでお客様の相続に直面したことがある、もしくは今後その可能性がある専門家の方に是非お読みいただきたい内容です。
 
 
本記事のポイントはこちら。

・事故があったことを告知するのは、『事故直後の入退去だけでいい』というのは誤りである。
 
・不動産取引での告知義務が変わる。押さえたいのは、賃貸と売買で異なる告知義務の期間と、死因により告知義務が異なること。
 
・遺産分割のときの“不動産の時価”には注意が必要。相続税評価額や一般査定による価格ではなく、心理的瑕疵物件としての時価を把握する必要がある。

 
 

 一度でも入退去があれば、
 それ以降の告知義務はない?

告知義務
 
特に不動産業界では、住んでいる方等がその不動産で亡くなったとき、自殺や他殺など事件や事故によるものなどを総称して『事故物件』『心理的瑕疵物件』と呼んでいます。
死亡の原因が病気の場合でも、そのように呼ぶケースもあります。
 
本記事では、『心理的瑕疵物件』と呼ばせていただきます。
 
皆様は、「亡くなられた後、誰かが一度でも住めば、次に賃貸や売買をするとき、事件・事故があったことを告知する必要がない」というような話を聞いたことはありませんか?
 
では実際に、誰かが一度でも入居すればそれ以降は告知しなくてもいい、そのような法律や決まりごとはあるのでしょうか?
 
 
答えは、現時点でそのような法律や決まりごとはありません。
プロサーチでも以前、心理的瑕疵物件の売却のお手伝いをしたことがあります。
その際の告知義務について、ある弁護士さんにお伺いしたところ、下記のようなご回答をいただきました。
 
・告知すべき期間に定めはありません。(宅建業法第47条第1項)
・判例では、その事件が公に報道されているなど多くの方が知るケースは、事件後50年が経ったとしても告知すべきとしたものもあります。
・逆に、単身者用のマンションで隣人との関係が希薄であれば、通常の賃貸借契約期間が過ぎれば、次の契約のときは告知義務を求めないとすることもありました。

 
まず一つ言えることは、“二度目以降は告知しなくてもいい”などといったことを、簡単に言ってはならないということです。
 

・事件の重大性
・共用部なのか、専有部なのか
・当該の部屋で起きたことなのか、違う部屋で起きたことなのか
・事故等の発生から、発見されるまでの時間

 
など様々な事情を考慮した上で判断せねばならず、非常に難しいことなのです。
弁護士等の専門家に事情を説明し、よく相談する必要があります。
 
 
このように、現時点では不動産を賃貸や売買するときには、所有者自身が知っていることや、不動産仲介会社も通常の調査の範囲で分かることは『全ての情報を相手方に告知する義務』があるのです。
告知義務については、宅建業法第47条第1項で規定されています。
 

宅建業法第47条
(業務に関する禁止事項)
第四十七条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
イ 第三十五条第一項各号又は第二項各号に掲げる事項
ロ 第三十五条の二各号に掲げる事項
ハ 第三十七条第一項各号又は第二項各号(第一号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
二 不当に高額の報酬を要求する行為
三 手付について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為

 
この条文には告知が必要な範囲や、告知を続ける期間の規定がありません。
このように明確な定義がないまま不動産会社も心理的瑕疵物件に対応してきた結果、入居や購入後のトラブルが絶えず、訴訟に発展してきたのです。
 
 

 心理的瑕疵物件の告知ガイドライン

ガイドライン
 
このような心理的瑕疵物件の取り扱いに一定の線引きをしようと、今年5月に国土交通省がそのガイドライン(案)を発表しました。
 
<ガイドライン案の概略>
 

【告知義務の期間:殺人や自殺などの場合】
・賃貸:事故の発生から少なくとも3年間は告知が必要。
・売買:告知期間の期限なし(取引金額やトラブルになった場合の損害額が大きいため)

 
共通して、マンション等の集合住宅の場合は、共用玄関、エレベーター、階段、廊下などのうち、日常使用する場所は告知義務の対象に含まれています。
また、事故死か自然死かが明らかでない場合でも告知義務はあるとしていました。
 

【告知義務の期間:病死や漏水、転倒によるものなどの自然死】
・賃貸、売買:告知義務の必要はない

 
ただし、その発見が遅れたことによりご遺体が傷み、臭気や害虫が発生したなどの場合には、賃貸においては、少なくとも3年間の告知義務を負うことになります。(売買の告知義務期限はありません)
 
不動産会社は、所有者や管理会社等への通常の範囲の調査を行うことが必要で、周辺住民への聞き取りまでは求めないとしています。
 
最終決定はまだのようですが、賃貸は『少なくとも3年間は告知が必要』と言ったルール変更になる可能性がありそうですね。
売買は、判例などのケースが増えてきたら何かしら改正が行われるでしょう。
 
 

 心理的瑕疵物件の遺産分割の実例

実例
 
心理的瑕疵物件は遺産分割のときに要注意です。実例を交えてお伝えいたします。
 
生命保険会社の営業の方からのご紹介でお越しになった、相談者Aさん。
お話を聞くと、お一人暮らしのお父様が今年8月、ご病気のためご自宅で亡くなられており、発見されるまで3週間経っていたようです。臭気と染みがあり、特殊清掃を行っていました。
 

家族構成
・長男である相談者Aさん、弟Bさん、弟Cさん
財産
・昭和40年築の木造家屋の自宅(相続税評価額1,500万円、通常の査定時価3,000万円)
・生命保険金1,500万円
・現預金3,000万円、有価証券3,000万円
ご相談内容
・自宅は使う予定が無いから売却しようと考えています。お願いできますか。

 
ご相談に来られた時は、ご相続発生からまだ日も浅く、遺産分割協議が終わった直後でした。
遺産分割協議書の締結や、価格の目安についてAさんに訊いてみました。
 

遺産分割協議:Aさんが自宅、BさんCさんがそれぞれ現預金等を均等に相続する
不動産査定価格:3,000万円

 
どうやら、不動産の価格査定は、お父様の生前に不動産会社から貰っていたようです。その査定価格を基に遺産分割協議もしていたとのことです。
 
 
ここまで伺って、私はちょっとまずいなと思いました。
『亡くなられたのが夏場で発見まで日数が経っていて、特殊清掃をしている』ことから、不動産価格への影響があるのではと考えました。
 
そしてAさんに、お父様が亡くなられた状況を考えると、心理的瑕疵があるとして告知義務に該当すること、価格への影響があることをお伝えしました。
 
Aさんは驚いた様子で、「病で亡くなるのは自然なことではないのですか?」と仰いました。
Aさんが仰ることも分かります。事件や事故によるものではなく、病死は自然なことですので、ご家族はそのように捉えてしまうのも無理はないでしょう。
 
しかし、その不動産を購入して住む側に立つと、“その不動産で人が亡くなっている”という事実による心理的な負担は少なからずあるものです。
 
もし、周辺で同じような条件の他物件も選べる状態であれば、心理的瑕疵物件ではなく”何もない不動産“を選ぶはずです。
そうすると買い手は少なくなり、結果として価格を下げざるを得なくなります。
 
このような話をして、Aさんには次のように不動産売却等のアドバイスをしました。
①限定入札の実施:必ず売れる価格を把握する
②遺産分割協議のやり直し:財産は時価で平等に分けるという前提が崩れている

 
Aさんから、この2つについて進めて欲しいとご依頼を受けました。
 
 

 不動産査定価格の半値!?

半額
 
まずは、②の遺産分割協議のやり直しに向けて、自宅の不動産時価を把握します。
把握するためには、不動産ポータルサイトに掲載はせず、不動産買取事業者への限定入札を行うという方法を用います。
 
理由は、『ポータルサイトは売却価格を掲載する必要がある』ので、特に今回のように幾らの価格が付くか分からない心理的瑕疵物件には合わないためです。
 
限定入札を行うことで、実際に売れるかどうかと、不動産買取事業者の時価(以下、「業者価格」という)が分かります。
この業者価格を基に売却等の判断をしても良いですし、業者価格に1.2~1.4を乗じると、個人が購入する価格に近付きます。
 
つまり、この方法ですと実際に一度売り出していますから、実際には売り出したこともない机上の査定価格よりも、より時価に近いと言えるでしょう。
 
お客様が納得して高く売るということについては、本記事でお伝えしたいことから逸れてしまうので、ここまでにします。
もし、もっと詳しくお知りになりたい専門家の方は、【プロサーチ遺産相続実務俱楽部】の毎月の勉強会(録画配信あり)にご参加ください。
こちらから、ぜひ一度覗いてみてくださいね。⇒【プロサーチ遺産相続実務倶楽部】
 
 
さて、このような限定入札を経て、①の時価を掴むことができました。
 
結果は、建物解体費等は業者負担という条件で、1,200万円が一番高い業者価格でした。
 
・心理的瑕疵により買い手が限定。再販に時間がかかり在庫として抱える。
・金融機関から借入して購入するが、再販に時間がかかる分、金利負担が増える。
・解体費200万円、境界確定測量費80万円は不動産買取事業者負担。

これらを考慮した上での価格提示でした。
 
私の予想では、800万円くらいを想定していました。
しかし、今回の売却は“更地にすること”が条件でもあったので、建物を使わない分、心理的瑕疵は減るということがプラスに作用したとのことです。
 
更地にして売却する理由は、いわゆる『相続空き家の3,000万円控除』を適用するためです。詳しくは過去の参考記事をご覧ください。
 
 
■参考記事
新たに創設される相続空き家の3,000万円特例控除とは!?

※記事内では平成28年までとなっていますが、適用期限が延長され、令和5年12月31日までの譲渡です。
 
 
業者価格が1,200万円ですから、一般個人が購入する時価として1.2~1.4を乗じると、1,440万円~1,680万円。間をとって1,560万円としました。
 
 

 遺産分割協議のやり直し

話し合い
 
Aさんに①限定入札の結果をお伝えしたところ、「えっ、父の生前に取った査定額の半値…」と大変驚かれていました。
 
3,000万円だと思っていたものが、まさか1,500万円まで下がるとは思いもよらなかったのだと思います。
この結果を持って、弟さんたちに相談してくるとのことでした。
 
しばらしくして、Aさんからご連絡がありました。
「山内さんに聞いた心理的瑕疵物件の話と、あの結果を見せたら、弟たちも驚いていたよ。遺産分割協議のやり直しに賛同してくれた。値段が下がったことは別として、限定入札をしてくれたから、弟たちも納得してやり直しに応じてくれた。ホッとしたよ」とのことでした。
 
Aさんたちは、結局、自宅も現預金等も含めてすべて平等に相続することにしたようです。
自宅は不動産買取事業者へそのまま売却することに決め、それぞれ3等分で売却代金を取得しました。
 
そのまま不動産買取事業者へ売却した理由は、「心理的瑕疵物件だから、いつ売れるか分からない状況のままで持ち続けたくない」ということだそうです。
 
 
今回のご相談者Aさんたちは、結果を見ると相続人同士で揉めずに手続きを終えることができています。
 

・相続人全員に対して、“心理的瑕疵物件としての時価”を納得いく形で示せたこと
・相続発生からすぐ遺産分割の再協議の場を作れたこと

 
相続から時間が経つと、相続人がお金を使い込んでしまっていて話し合いに応じられなくなるケースもありますから、この2つが、揉めずに遺産分割の再協議ができたポイントではないでしょうか。
 
Aさんにはとても感謝されましたが、「一度決めた事だから」と相続人が遺産分割協議のやり直しに応じなかったり、遺言通りに進めるべきだと遺産分割協議に応じなかったりするケースもあるでしょう。
 
告知義務が法改正されたとしても、“心理的瑕疵物件”に該当してしまうと、不動産価格に大きな影響を与えることに変わりはありません。
 
遺産分割協議の場面で、お客様が悩み揉める原因となるのは、”不動産の時価“です。
現預金や有価証券とは異なり、売ってみないと時価が分からないということが、判断を難しくさせているのです。
 
本記事でお伝えしたように、【心理的瑕疵等の告知義務】は、お客様の資産価値に大きな影響を及ぼします。相続の専門家は、今後も注視していく必要があるでしょう。
 
プロサーチでは、本記事でお伝えしたような遺産分割協議のための時価算定も承っています。
これまで多くの税理士・弁護士・司法書士・生命保険会社などの相続を扱う専門家からご依頼をいただいておりますので、“遺産分割協議のために時価が知りたい”と、お気軽にお問い合わせください。
 
 

 遺産相続コンシェルジュより

 
本記事のポイントはこちら。

・事故があったことを告知するのは、『事故直後の入退去だけでいい』というのは誤りである。
 
・不動産取引での告知義務が変わる。押さえたいのは、賃貸と売買で異なる告知義務の期間と、死因により告知義務が異なること。
 
・遺産分割のときの“不動産の時価”には注意が必要。相続税評価額や一般査定による価格ではなく、心理的瑕疵物件としての時価を把握する必要がある。

 


不動産取引の現場では、心理的瑕疵物件に対する告知期間や告知内容は曖昧なままでした。
今回の改正案で、特に賃貸不動産は告知義務が変わりますからよく押さえておくといいでしょう。
 
売買はまだ事例が少ないため、踏み込んだ改正はもう少し後になりそうですね。
賃貸と同じように改正されれば、取引の現場ごとに悩まなくても済みます。
それがお客様や不動産会社にとっても、良い傾向になるのではないでしょうか。
 
今後もプロサーチでは相続人様の考えや思いに寄り添い、どのような進め方が最適なのか、具体的なアドバイスを行ってまいります。(記:山内綾子)

 

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