不動産相続対策に大きな影響!?【令和5年度税制改正大綱】から考える3つのポイント

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不動産相続対策に大きな影響!?【令和5年度税制改正大綱】から考える3つのポイント写真
2022.12.27

 
令和4年12月16日に、『令和5年度税制改正大綱』が発表されましたね。
※令和5年度税制改正大綱はこちら
 
2年前の税制改正大綱から暦年贈与の改正があるのではと話題になっていましたが、今年度にようやく盛り込まれました。
相続時精算課税制度、空き家特例の改正、そしてマンションの評価と時価の乖離の解消への示唆もあり、相続対策を考える専門家にとって相続税制の改正はますます目が離せなくなってきています。
 
本記事では、令和5年度税制改正大綱の相続・不動産の主たる改正内容と、専門家がお客様へ伝えるべき3つのポイントをお伝えいたします。
 
本記事のポイントはこちら。

・相続の改正ポイントの目玉は、「生前贈与の加算期間」と「相続時精算課税制度の改正」の2つ。
 
・不動産の改正ポイントは、相続の改正ほどのインパクトはなかったものの、マンション評価を見直すことに言及した点に注目。
 
・『相続空き家の3,000万円特別控除の特例』は期間延長となったが、控除額が縮小された。
 
・今回の改正で押さえたい3つの対策ポイントは、①贈与or(and)相続の選択 ②対策目的の明確化 ③ロードマップの策定

 
 

 生前贈与の促進と税負担公平化への動き

生前贈与
政府が相続と贈与の一体化を打ち出したのは、令和3年度の税制改正大綱からです。
「高齢世代が保有する資産が、より早いタイミングで若年世代に移転することとなれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される」ことや「税の公平負担」などについて述べています。
 
本腰を入れて改正をしていくとハッキリ言及していますから、今回の改正、そして今後も目が離せません。
 
それでは早速、令和5年度税制改正大綱の、相続と不動産の改正についてそれぞれ見ていきましょう。
 

 相続の改正ポイント

今回の税制改正(相続)で目玉となったのは、「生前贈与の加算期間」と「相続時精算課税制度」の2つの改正です。
相続対策を考える上で、ここは押さえておく必要があります。
 

生前贈与の加算期間

生前に自分の相続人となる者(子など)に暦年贈与をしていた場合について、改正がありました。
改正となるのは、生前贈与した分が相続時に持ち戻される「期間」です。
 
現状、相続前3年以内の贈与分が相続財産に持ち戻しされていますが、改正では3年から7年以内とする、と書かれていました。
 
令和6年以降に生前贈与する分から適用となり、加算期間は令和9年から延ばしていき、令和13年には持ち戻し期間が7年となります。
 
なお、持ち戻しのうち、相続発生4年前から7年前に行った生前贈与合計額から、100万円を控除した金額を相続財産に加算することになっています。
 
 

<例>
・母の資産5,000万円
・母が子(一人)に10年間にわたり、110万円/年を贈与

 
 

【現行制度】
110万円×3年=330万円が相続財産へ加算されます。
110万円×7年=770万円は相続財産に加算されません。
 
相続財産は、4,230万円(5,000万円-770万円)です。

 

【改正制度】
110万円×7年-100万円=670万円が相続財産へ加算されます。
110万円×3年=330万円は相続財産に加算されません。
 
相続財産は、4,670万円(5,000万円-330万円)です。

 
 
このように、改正によって相続税の負担が増えます。
相続対策の一環として生前贈与を考える方は、さらに早いタイミングで贈与を実行していく必要がありそうです。
 
なお、相続時に相続財産へ持ち戻しとなる対象は相続人のみであって、孫などの相続人ではない人が受けた贈与分は、相続時に戻さなくていいことになっています。
この点についての改正はありませんでした。
 

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度が改正され、現行よりも使いやすくなりそうです。
 
現行制度は、直系尊属からの生前贈与について、一定金額(上限2,500万円)まで贈与税を課税せず、相続発生後に相続財産として加算し精算する制度です。
 
この制度を適用すると贈与税の基礎控除110万円が使えなくなるため、制度利用を躊躇する方が一定数いました。
 

今回の改正点
・この制度を使った場合でも、110万円/年を控除できることになった
・控除した110万円は、相続のときに持ち戻しの加算対象外
・令和6年1月1日以降の贈与

 
110万円を控除できるのみならず、その控除した金額を加算しなくていいということは、大きな改正ポイントですね。
 

計算式 ((贈与額−110万円)-2,500万円)×一律20%

 
先に述べた贈与税も同様に110万円(基礎控除)を使えますが、控除した金額も含め全て7年間分持ち戻しされますから、相続時精算課税制度の方が有利になるのではないでしょうか。
 
なお、この相続時精算課税制度の110万円控除は、特定贈与者が複数人いても受贈者一人あたり110万円を上限とする計算になるのかが気になるところです。
 
 

<例>
・母の資産5,000万円
・母が子(一人)に10年間にわたり、250万円/年を相続時精算課税制度で贈与

 
 

【現行制度】
250万円×10年=2,500万円(贈与税負担なし)が加算されます。
 
相続財産は、5,000万円(2,500万円+相続時精算課税制度の2,500万円)です。

 

【改正制度】
(250万円-110万円)×10年=1,400万円が加算されます。
 
相続財産は、3,900万円(2,500万円+1,400万円)です。

 
現行制度よりも、非常にお得となる改正ですね。
 
 
続いて、暦年贈与と相続時精算課税制度を比べてみましょう。
 

<例>
・母の資産5,000万円
・母が子(一人)に10年間にわたり、110万円/年を贈与

 
 

【暦年贈与】
110万円×持ち戻し7年=770万円が加算されます。
 
相続財産は、4,670万円(贈与後の資産5,000万円-1,100万円=3,900万円+770万円)です。

 

【相続時精算課税制度】
(110万円-控除110万円)=0円が加算されます。
 
相続財産は、3,900万円(5,000万円-1,100万円※加算なし)です。

 
このような計算が成り立つのであれば、相続時精算課税制度を適用する方が有利ですね。
 
留意点は、『この制度を利用して住宅(実家)を贈与してしまうと、小規模宅地の特例が使えなくなる』ということです。このポイントは押さえておきましょう。
 

 不動産の改正ポイント

不動産では空き家特例の延長などがありましたが、前述した相続の改正ポイント程のインパクトある改正はありませんでした。
 
注目したのは、税制改正大綱のP21(5.円滑・適正な納税のための環境整備 (5)マンションの相続税評価について)にて、マンション評価を見直すことに言及した点です。
どのような改正になるのか、改正内容が増税方針となると、マンションを使った相続対策に大きな影響が出るでしょう。
 
来年度以降の税制改正大綱も要チェックです。
 

相続空き家の3,000万円特別控除の特例

『相続空き家の3,000万円特別控除の特例』とは、相続した空き家を売却したときに、一定条件をクリアしていれば譲渡所得税の負担を抑えられるという制度です。
 

今回の改正点
・特例を4年間延長し、令和9年12月31日までの譲渡に適用できる
・建物も引渡す:耐震基準に適合、更地引渡し:建物解体
 上記状態を譲渡時点ではなく、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに行えば適用できる
・空き家を相続した相続人が3人以上の場合の控除額が3,000万円→2,000万円となる
・令和6年1月1日以降の譲渡から適用

 
相続した不動産を売却するときにこの特例が使えると、お客様には手取りが増えたと喜んでいただけますので、期限延長は専門家にとっても喜ばしいことです。
ただ、今回控除額が縮小されましたので、ゆくゆくは廃止や更なる縮小もあるのか、まだ先ですが特例期限近く(令和9年)の税制改正大綱も要チェックです。
 
■関連記事
早くしないと損するかも?相続空き家の3000万円特別控除をつかって空き家の実家を賢く売る4つのポイント

(注:個人のお客様向けの記事です)
 
 
この他に、低未利用地の譲渡所得税の特例が3年延長などの改正もありましたので、気になる方は税制改正大綱のP33をご確認ください。
 
 

 改正で押さえたい3つの対策ポイント

ポイント
今回の改正内容や、相続と贈与の一体化の方針を踏まえて今後考えておくべき対策について、3つのポイントに絞ってお伝えいたします。
 

 ①贈与or(and)相続の選択

資産をどのように効率よく次世代へ承継していくか、そのためには税制も把握しておく必要があります。
今回の相続時精算課税制度の改正内容には驚きましたし、大きな税メリットを得られる可能性があります。
 
効率、税メリットの視点で、相続まで贈与せずに残す方がいいのか、それとも贈与を進めていく方がいいのか。
これだけ税制が変わってくると、「贈与税より相続税の方が税率の階段が緩やかだから、相続のときに渡せばいい」ということは一概に言えなくなってきています。
 
また、政府が海外の税制を参考にしているとなると、贈与税の加算時期も7年ではなく、今後さらに長くなる可能性も十分にあり得ます。
お客様には平均寿命辺りから相続対策を考えていただくのではなく、もっと前から、例えば相続時精算課税制度が使える60歳(親や祖父母世代)を超えた辺りから取り組んでいただく意識が必要かもしれません。
 

 ②対策目的の明確化

「兄弟仲良く遺産を分けてほしい」「一族の歴史を守ってほしい」などの大きな対策目的も大切ですが、ここでいう対策目的は気持ちではなく、資産にフォーカスしたものです。
 

・現預金を渡すことで、子や孫の生活を豊かにしてあげたい。
・自宅を購入又は贈与するから、住宅ローン分は孫の教育費に回してほしい。
・自分の家(実家)は施設入居などで住まなくなったら処分して、その代金を相続対策や贈与等に使っていい。

 
など、「親が元気な今のうちに、子や孫にしたいことはなにか?」「子が親に対して、してほしいことは?」を考え目的に据えると、税メリットを享受できる税制上の特例を見つけやすくなります。
 
結婚・教育資金贈与や住宅資金贈与、相続時精算課税制度による贈与など、期限付きのものもあれば、早めに着手することでメリットが最大化するものもあります。
 
特例を使うタイミングを逸しないよう、お客様に対して対策目的を明確にすることの必要性を伝えていくサポートが必要ですね。
 

 ③ロードマップの策定

相続対策は“考え始めた”ときがスタートです。
早いうちから着手することでお客様の対策の選択肢が広がる(広がるというより、選択肢が狭まるのを防げる)ことを、私たち専門家は知っています。
しかし、お客様にとっては、色々と考えなくちゃいけないから面倒くさかったり、「何から着手すればいいのか」と途方に暮れてしまったりします。
 
弊社では、個別相談等でお客様やご家族の目的・ご希望をしっかり伺った上で、具体性のある対策とその進め方を落とし込んでいくようにしています。
先々行うべきことをスケジュール化すれば、そこに向かって、特例を使えるように適用要件を整備することができます。
 
このように相続対策ロードマップのような可視化できるものを用意し、現在はどこまで進んできたのか、これから何をするのかをお客様と情報共有しています。
 
ロードマップを策定しておくことで、改正の都度すぐに見直すことができ、対策調整したり方向転換したりするなど、舵取りがスムーズに行えるでしょう。
 
 

 遺産相続コンシェルジュより

 
本記事のポイントはこちら。

・相続の改正ポイントの目玉は、「生前贈与の加算期間」と「相続時精算課税制度の改正」の2つ。
 
・不動産の改正ポイントは、相続の改正ほどのインパクトはなかったものの、マンション評価を見直すことに言及した点に注目。
 
・『相続空き家の3,000万円特別控除の特例』は期間延長となったが、控除額が縮小された。
 
・今回の改正で押さえたい3つの対策ポイントは、①贈与or(and)相続の選択 ②対策目的の明確化 ③ロードマップの策定

 
今年度の税制改正大綱は、相続と贈与の一体化に向けて大きな改正をしたと言えるのではないでしょうか。
 
今後マンションを使った対策にメスが入る可能性も高まっており、不動産を利用した相続税対策がしにくくなることも考えらます。
そうなると、その他で使える特例などの税制までチェックしておくことが、相続・不動産の専門家に求められているスキルでしょう。
 
基本的に「お客様は情報を知らない」このように考えて、お客様やそのご家族に必要であろう情報を積極的に提供してまいりましょう。
弊社も日々キャッチアップして、今後も記事や勉強会などで発信していきます。(記:松尾企晴)
 
 

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この記事の監修
プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)

20歳のとき母方の祖父母を火事で亡くし、祖父祖母の相続では兄妹間の争族に発展。『またいつか』ではなく『すぐにでも』行動しなければならないことや、どれだけ仲の良い兄妹でも揉めることを痛感。会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から信頼を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。

 
 

 

 

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