頑固オヤジと家族の支え

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頑固オヤジと家族の支え写真

『頑固オヤジ』

「この土地は先祖代々引き継いできた大切な土地だから子供達に迷惑になろうとも絶対に売らない。」
「子供は黙って親の言うことを聞いていればいいのだ。」

こんな風に息巻いている頑固なお父さんは皆さんの周りにいないだろうか?

何を隠そう私の父が、私に対していつもこういうことを言ってくる典型的な頑固オヤジなのだ。自分の意思がガッチリと固まってブレないところは、私からすると、とても尊敬するところではあるのだが、いざ家族の話し合いになると、話し合いとは名ばかりの一方的な自論の展開になる。

そしてこちらがどんなに素晴らしい提案をしようが、オヤジに少しでも気に食わない部分がある場合は却下されてしまう。理由を聞いても答えない。本当に理不尽だ。
と、ちょっと自分の話をしてしまったが、先日ご相談に来られたAさんのお父様(80歳)もまさに私の父と同じ匂いのする頑固なお父さんだった。

ご相談内容

ご相談内容は、Aさんのお父様が営んできた会社を業績不振により解散するため、銀行への借入金返済の原資として会社が所有する不動産を売却して欲しいというものだった。

会社の解散期日まではあと3ヶ月。早速不動産の価格を査定してみると、顧問の税理士が試算した最低売却価格のギリギリのラインだった。期限もあるので、一刻も早く売却をする必要があったので、早速売却活動の提案をさせて頂いた。

売却方法のご提案

最終的な期限があるため、契約後に解除される売買契約では大変なことになる。そのために購入条件には融資特約は付けることはできない。融資特約なしで購入検討するのは、ほぼ不動産会社に限られる。一般の投資家への売却価格と比べると価格が若干目減りするが、まずは確実に安全な取引を行うことが一番の目的となる。

そこで売却先を不動産会社に絞り、期日を決めた指名入札方式をご提案することにし、周辺相場と売却予想価格をはじき出して、Aさんとお父様に報告へ行くことにした。

私「今回は期間の制約もありますので、確実に売却するため不動産業者を対象とした指名入札をご提案します。売却予想価格は、5,000万円前後になると想定されます。」
Aさん「そうですか。それであれば銀行への借入金の返済も出来ますし、ぜひ進めて下さい。いいですよね、お父さん?」
お父様「5,000万円ですか・・・。私の見立てでは7,000万円なのですがね・・・。」
私「この辺りの相場からすると、時間に余裕があって一般のお客様へ売却をしたとしても5,700万円ぐらいでしょう。当然、売却価格が少しでも上がる努力はいたします。」
お父様「そうですか。ではよろしくお願いします。」

渋々ながらもご納得頂き、いざ売却活動へ。
この時、私はまだお父様に頑固オヤジの片鱗を見つけられないでいた。

入札結果の報告

十数社へ入札の案内を出し、結果、一番高値を付けた不動産会社の購入価格は5,000万円だった。私が想定していた通りの金額である。この時、私は「これで銀行への借入金も全て返済できるし、当初お伝えした金額と同額だし、なんとかなりそうだな。もしかすると、さすが中田さん!と誉めて頂けるかな。」と思っていた。
ところが、想定していない事態が発生した。

私「お父さん、よかったですね!最高金額は5,000万円です!」
お父様「いやいや、こんな値段じゃ売れないよ!」

私とAさんは頭の中がクエスチョンマークになった。
借入金も全て返せるし、期限も間に合うし、なぜお父様は納得してくれないのだろう・・・。

お父様「私は7,000万円と言ったのだ。7,000万円じゃないと売らないよ!」
私「そうですか・・・。」私は久しぶりに実家に帰った気がした。

その後、私とAさんで、7,000万円で売ること自体は非常に難しく、このまま売却を決意しなかった場合には会社も解散出来ず、みんなが困る事態になることも伝えたが、お父様は全く聞く耳を持たなかった。

そして、それから30分ほど、お父様の持論の展開と戦争から自分の会社を立ち上げ苦労した話、バブルがはじけた際に銀行から借入金の全額返済を迫られ、大事にしていた駅前の一等地の土地を二束三文で売ることになったため不動産売却には良い印象がない話などを一方的に話された後に一言。

お父様「7,000万円になるように、もう一度真剣に売却活動を行ってください。」
結局この日はこれ以上の説得はできずに終わった。
翌日から私は、内心無理だろうなと思いつつも、再度売却活動を行うことにした。

2度目の結果報告

再度、売却活動を行ったが、5,000万円以上の買主は現れなかった。とても気が重いが、Aさんとお父様に結果報告をしに行くことに。

私「再度頑張ってみましたが、やはり5,000万円を上回ることは出来ませんでした。」
お父様「それじゃあ売れませんよ。だいたい私は会社を解散するなんてこれっぽっちも思っていない!」

またまた私とAさんは頭の中がクエスチョンマークになった。
私とAさんで、このまま事業を続けても赤字が続く一方で、今解散をしないと不動産の売却だけでは借入金の返済ができなくなることや、事業の取引先には会社を解散することをお伝えしていて、既に引き返せない段階にあることを伝えるも、全く聞く耳を持たない。
そしてまたお父様から30分程前回と同じお話を頂戴し、最終的には「もう一度真剣に売却活動してください。」のお父様の一言でこの日も終わった。

私はいよいよ不安になってきたが、再度売却活動を行うことにした。

3度目の結果報告

改めてもう一度、売却活動を行ったが、やはり結果は同じだった。

私「お父様、やはりこの条件でのこの価格が今のタイミングで売れる最高の金額です。話を進めていきませんか。」
お父様「いえいえ、私は7,000万円じゃないと売りません!」

このままでは今日も無理かもしれない、期限を考えても、もう限界だ・・・と諦めかけた時だった。

Aさん「お父さん、何をそんなに意地を張っているの?2,000万円ないと困るの?じゃあその2,000万円は俺がお父さんに払うから、納得してくれよ!!!」
今までずっと優しくお父様へ接していたAさんが、ついにお父様へ思いを爆発させたのだった。

今までと違うAさんの対応に、お父様は息子が自分を心配してくれている気持ちを感じたのかもしれない。
お父様「よし、わかった。お前がそう言うならもういい。お前の気持ちに応えて今回は契約をしよう。」とポツリと呟いた。
そして最後に一言。「中田さん、それでは契約の手続きを宜しくお願いします。」

こうして最終的には予定していた期限に無事契約することができたのだった。

息子さんの想いがこもった一言でこれまで頑なにスタンスを崩さなかった頑固オヤジの中で、何かが大きく変わったことは表情や態度からも明らかにによく分かった。

お父様がなぜ2,000万円に固執していたのか、その本当の理由は最後まで解らなかったが、老後の生活のために少しでも多くの現金を手元に残し、少しでも多く息子さんに残してあげたかったのか。または経営者としての最後の意地だったのかはわからない。

今回のケースで、「親と子の心の底からの想い」が、時には相手の心を動かし、時には知らなかった相手の想いを感じさせ、それまでの考えが変わるキッカケとなる大事なスパイスであるということを実感した。

私も久しぶりに帰郷し、頑固オヤジと心を据えて話してみようと思った。

遺産相続コンシェルジュからのアドバイス

親と子で腹を割って話すというのは、これまでのご相談者の方のお話や、自分の親との関係で考えても中々出来ることではありません。特に相続は親の「死」というネガティブな事に向き合う事になるため、尚更話しにくいキーワードです。最近よくあるご相談は、「親が認知症になってしまったが、どの様に生前対策を行えばいいか」といったもの。私共のセミナーではお伝えしていますが、意思能力がなくなると、契約を結ぶ事は出来ません。遺言を残すことすら出来ません。体調や意識の変化があった際に慌てて対策を行うとしても、相続発生までに時間が全然無かったり、贈与した財産が相続財産に含まれてしまったりします。ですので、親が元気なうちに、親子一丸となって積極的に問題を考え、親と共に腹を割って理想の相続について話す必要があるのではないのでしょうか。
(記:中田千太郎)

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