相続税策でアパート建築して失敗する前に、知っておきたい相続対策3つのステップ

更新2025.4.20
『節税対策のためアパート建築を提案されたけどそのまま進めていっていいの?』
『相続税の納税や節税のためにとりあえず生命保険加入した方がいいのかな?』
このようなご相談をよくいただきます。
しかし、相続税の節税対策を実行する前に“あること”をしておかないと、税金は安くなったものの「遺産分割で揉めてしまう」「相続税を支払うために苦労した」という事態を招きかねません。
本記事では「相続で揉めないために、節税対策する前に行うこと」と「相続対策の順番」を解説します。いま相続税の節税を考えている方や、これから相続対策を進める方はぜひ読み進めてください。
今回のポイントは以下の通りです。
・各相続対策を行う前に、資産の現状把握をすることが重要。
揉めない相続対策3つのステップ
相続対策には、大きく「遺産分割」「納税財源確保」「節税」の3つに分けられます。
相続で揉めないためには、遺産分割⇒納税財源⇒節税の順で進めることが基本です。
現状の資産での遺産分割は分けやすいか、評価や時価、収益などについて各相続人が納得できるかを確認します。
ステップ2:納税財源確保
ステップ1の遺産分割に基づき、各相続人の納税財源を確保できる状態かを確認します。
ステップ3:節税
ステップ1と2をクリアした上で、問題のない節税対策を検討・実行します。
節税対策から先に進めてしまうと、“遺産分割や納税で困る”状況に陥りやすいので注意が必要です。
事例
なぜ、節税対策から始めると分割や納税で困ることになるのでしょうか。具体例を見ていきましょう。
※長男・次男ともにそれぞれ、配偶者と子どもがいます。
資産内容:母自宅(土地100坪)、畑(100坪)、現預金2,500万円 借入金無し
自宅と畑は最寄り駅から徒歩20分
総資産額:1億7,500万円(評価内訳:自宅5,000万円、畑1億円、現預金2,500万円)
相 続 税:総額約2,600万円
相談内容:相続税の節税をしたい。借金して畑にアパート1棟の建築を勧められているが、進めていいのだろうか。
5年前のお父様ご相続後、お母様は耕作を止めてしまい畑は更地状態。相続税の負担も大きいことから、節税対策しなければと考えていらっしゃいました。
アパート建築での節税対策前後を比較してみます。
|
対策前
|
対策後
|
①総資産額
|
1億7,500万円
|
8,000万円
|
資産評価内訳
|
自宅5,000万円
畑1億円 現預金2,500万円 |
自宅5,000万円
アパート1億500万円 現預金2,500万円 借入金▲1億円 |
②基礎控除
|
▲4,200万円
|
▲4,200万円
|
③課税遺産総額(①-②)
|
1億3,300万円
|
3,800万円
|
④一人当たり(③÷相続人2人)
|
6,650万円/人
|
1,900万円/人
|
⑤ ④×相続税率
|
④×30%-700万円
|
④×15%-50万円
|
相続税(⑤×相続人2人)
|
2,590万円
|
470万円
|
※②基礎控除:3,000万円+(600万円×相続人の数)
※相続税率については国税庁HPをご覧ください。
現金(借入金)を不動産に換えることでおよそ2,120万円も相続税を節税できそうです。お母様の現預金で相続税を納税できますし、収益物件も手に入り安定収益が確保できますから、このままアパート建築による相続税対策を進めていく方も多いです。
しかし、遺産分割・納税財源を飛ばして節税対策を進めてしまうとどうなるでしょうか。
長男さんにこのように確認しました。
借入金付きアパートは誰が相続しますか?
2)納税財源
実家だけを相続した場合、相続税を納税する現金はありますか?
長男「自分が実家で、弟がアパートを相続すると思っているけど、弟に聞いたことはない。」
「相続税納税のことは考えていなかった。」
どれだけ節税できるかに興味が強いため、アパート建築した後の遺産分割と納税までは考えていませんでした。
後日、次男にも確認しました。
次男さんは「相続税を引き下げたいのは同じだけど、駅から離れているし1億円の借入金は怖いよ。アパートは相続したくないな」とのこと。
結局アパート建築は見送られましたが、弟さんの意見を聞かないままアパート建築していたらどうなっていたでしょうか。
「誰が借金付きアパートを引き継ぐのか」で揉めるリスクがありました。
また、現預金の分配によっては納税資金が足りず、長男さんは自宅相続に加え、300万円超の相続税を工面しなければならなくなった可能性もあります。
特に不動産を多く相続する場合は、納税資金の確保に十分な注意が必要です。
相続対策の前に必要なこと
これまで、ここまで「遺産分割」「納税財源」「節税」のステップを紹介しましたが、ステップ1・2を検証するには資産の現状把握が不可欠です。
資産の現状把握とは、現在保有している資産がどのような状況にあるかを正確に数値化することです。
1.現預金、借入金の額
2.各資産の相続税評価額と相続税額
3.財産明細
・生命保険の契約内容や保険金
・不動産の種類、権利関係、時価
・有価証券
また、資産の現状把握は一度したら終わりではありません。
・資産処分や節税対策などによる資産構成の変化
・相続税評価額の再計算(相続税路線価は毎年7月に公表される)
・相続人の数の変更 など
これらを常に把握しておくことで、遺産分割では、各相続人の取得額で試算でき、法定相続分に対して問題ないか(遺留分の問題が生じるか)がわかります。納税財源では、遺産分割に応じ現預金で納税ができるか、または、不動産などの資産売却(時価)で対応できるのかが分かります。資産の現状は常に最新の情報に更新しておくことが大切です。
なお、相続税評価額や相続税の計算が分からない場合は、会計士や税理士、最寄りの税務署で確認できますし、不動産時価は近くの不動産会社や不動産ネット査定を活用(営業の電話は相当きますが…)、税理士や生命保険などの専門家から紹介してもらってご確認ください。
関連記事
認知症になるとできなくなること。知っておきたい預金や実家の話
まとめ
・各相続対策を行う前に、資産の現状把握をすることが重要。
平成27年の相続税改正で、基礎控除額が引き下げられた結果、相続税がかかる家庭が増えました。これによりアパート建築や生命保険など、節税対策セミナーも増加しています。
資産購入による節税対策は効果が見えやすいため、飛びつきたくなる気持ちも分かりますが、本記事で紹介した正しいステップを踏むことで、リスクを防ぎながら確実な相続対策を行いましょう。
関連記事
不動産相続の手続きで最初にすることはこれ!税金で損しない方法もプロが解説

現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。
