家族信託で不動産を託されたお客様のために、相続の専門家が行うべき信託組成後のフォローとは?

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2021.8.31
更新 2021.12.15

 
最近では聞くことの多くなった家族信託
専門士業の方々、生命保険、FP等専門家や銀行、証券会社でも家族信託サービスを展開する企業を見かけるようになりました。
 
親(委託者)から財産を託された子(受託者)の多くは、自宅やアパートなどの不動産の管理や経営自体が初めてという方ばかりです。
そのため、家族信託を組成するとき、子が不動産の現状を正確に把握しているということは稀です。
 
そして専門家も、家族信託を組成することを目的としているから、不動産の現状については気にもかけていない、不動産は専門外だからアドバイスできていないということが多く起きています。
 
今回は、お客様が不動産を家族信託したあと”親から子へ託す実務上の手続き“について、具体的にお伝えいたします。
家族信託で不動産を託されたお客様がいらっしゃる、不動産の手続きのことはよく分からないという専門家の皆様に、ぜひご覧いただきたい内容となっております。
 
本記事のポイントはこちら。

・不動産を家族信託したあと、名義変更や管理、信託計算書の作成など、子(受託者)が行うことは多岐にわたる。
 
・親が元気なうちにできることは、追加信託や子(受託者)のサポート、家族信託を継続するかどうかを判断すること。
 
・家族信託後にスムーズに『親の財産の管理や処分』を行えるお客様は少ない。専門家は実務上の財産管理移行の手続きをサポートすることが大切。
 
・家族信託はあくまでも手段のひとつであり、ゴールではない。信託組成後のアフターフォローが重要である。

 
 

 不動産の家族信託

託す
 
親が認知症等によって意思判断能力を喪失してしまうと、家族(子など)が、不動産を貸したり売ったり建て替えたりなどすることが一切できなくなります。
 
そうなった時に家族が困らないために、親が認知症等になっても子が不動産を管理や売買できるようにと、家族信託をするお客様が増えてきています。
 
家族信託とは何かを知りたい方は、関連記事:「家族信託ってなに?概要や仕組みをわかりやすくイラスト解説!」をご覧ください。
 
 

 不動産を家族信託するには

 
親が子に託すという内容で家族信託契約をしたあと、不動産については法務局で「信託登記」の手続きをする必要があります。
 
この手続きをすることで、託された子(受託者)が、親に代わって管理や売買などをすることが可能になります。
 

 
信託登記の手続きは、家族信託の契約書を作成してくれた司法書士が行うことが殆どです。
 
念のため、不動産の家族信託の見積書に信託登記手続きが含まれているかどうかを、お客様に確認しておきましょう。
 
 

 不動産の家族信託組成後のサポート

サポート
 
家族信託契約を組成すると、子が親の財産管理を行うという目的は達成できますね。お客様も安心されることでしょう。
 
しかし、家族信託は組成してからがスタートですが、“不動産を信託した後の実務上の手続き”まで丁寧にサポートしている専門家は少ないように思います。
 
事例をご紹介いたします。
 
 

家族構成
父:85歳
子:長男Aさん62歳、長女Bさん60歳
※母は数年前に他界
 
財産:現預金3,000万円、父の借地権の自宅(地主から土地を借りている)、アパート2棟

 

相談者:長男Aさん
最近、父から、“財産のことはお前たち二人に任せる”と言われました。
そして、不動産の相続対策と家族信託もあわせて検討したいと顧問の税理士さんに相談したら、プロサーチさんの名前が出たのでご紹介いただきました。

 
Aさんからお話を伺うと、どうやら不動産についてはその所在を固定資産税明細で知っている程度で、アパートを実際に見たこともなく、ほとんど何も分からないご様子でした。
 
 
その後、2度ほどお会いし、資産の現状把握等を行いました。
 
<資産の現状把握と対策>
・相続税評価額、相続税額(税理士と協業)
・不動産の調査、問題点とその解決方法
・遺産分割や納税資金、相続税評価額の引き下げ等の相続対策

 
弊社から現状把握と対策の説明をしたところ、Aさんたちご家族は必要性を感じられたようで、「父になにかあっても、家族信託をしておけば家族にとって必要な相続対策を進められる」と、家族信託を組成することになりました。
 
 
しかし、Aさんはご自身が受託者となることに不安を抱えていました。
 

【Aさんの心配事】
 
・受託者として、まず何を始めにすればいいのか分からない
・不動産の管理といっても、具体的に何をすればいいのか?
・アパートの管理会社とはどのように関わればいいのか?
・家族信託や信託不動産のことまで、継続して相談できるのか?

 
確かに、家族信託によって、初めて不動産の管理をすることになるわけですから、分からないことだらけですよね。
 
不動産を信託したからといって、管理会社などの関係各所が自動的に対応してくれるわけではありません。
Aさんは“誰にどのような連絡をするのか”さえ分からず、専門家のサポート無しにはスムーズに受託者の仕事を進めることができないと不安を感じていたのです。
 
 

 家族信託契約後に必要な
 不動産に関する4つの手続き

チェックリスト
 
親が不動産を管理していたときは、子が手続きをするという機会はほとんどありません。
ですが不動産を家族信託すると、子が親に代わってすべての手続きを行うことになります。
 
では具体的に、子は何をすればいいのでしょうか?
 
家族信託後に、子(受託者)が行うべき手続きについて、4つの項目に分けてお伝えいたします。
 

 ①信託不動産に関する名義変更

家族信託した後にまず行うことは、名義や口座の変更です。
 
自宅・借地(地主に土地を借りて建物を建てている)・アパートなどの賃貸不動産のそれぞれの不動産についてお伝えします。
なお、自宅の場合に行う手続きは、借地やアパートなどの賃貸不動産でも行う共通事項です。
 

自宅

電気・ガス・水道、建物の火災保険、ホームセキュリティなどです。
これらは必ず変えないといけないわけではありませんが、子の名義に統一しておくことで、いざ売却や賃貸をするときにいちいち名義を確認する手間が省けます。
 

借地

借地は、土地を貸してくれている地主に対し、家族信託によって親から子に名義が変わることを伝える必要があります。
 
なお、地主には、家族信託をする前に伝えるようにしてください。
弊社のこれまでの経験から、名義が変わることを先に伝えなかった場合、「なぜ先に言ってくれないのか」と地主との間でわだかまりができてしまう可能性が高いからです。
 
もしお客様が地主への連絡をしていないようでしたら、すぐに連絡するべきとアドバイスしたほうがいいでしょう。
さらに、名義変更については、口頭で伝えるだけではなく、できれば履歴が残るように書面で取り交わしていただくようにしてください。
 

 
また、中には、名義変更の承諾料を求めてくる地主もいます。
料金は借地権価格の10%ほどが相場ですが、土地価格によっては、百万円単位になることもあります。
 
もし承諾料を請求されたときは、承諾料を支払ってでも家族信託をするのか、家族信託はやめて任意後見など他の方法にするのか、それぞれのメリットデメリットをお客様にお伝えし、よく検討していただくようにしましょう。
 
補足ですが、名義変更の承諾料は『売買や贈与による名義変更』の時とされています。
家族信託は実質的な名義は親のままですから、売買等による名義変更ではないことを、『認知症対策や財産管理の目的で、家族信託をして親の不動産を子が管理することにした』といった理由と共に地主にしっかりと伝える必要があります。
 

アパートなどの賃貸不動産

自宅や借地と異なり、名義変更等を伝える先が一気に増えます。
家族信託によって、貸主の名義が変わったことや、賃料等の支払い先等の変更を伝える必要があるためです。
 
①所有者や貸主
②賃料等の振込先口座
③連絡先

 
上記の3点について、賃借人や管理会社、清掃会社等のアパート管理に関係する方すべてに連絡をする必要があります。
特に賃料の振込先については、賃借人も金融機関で手続きが必要な場合もありますので、何月分の賃料から口座変更をお願いするのかを決め、早めに通知をするようにとお客様にお伝えしましょう。
 

 ②信託不動産の管理、収入、支払い

不動産の管理に関する項目は多岐に渡りますから、本記事ですべてをお伝えするのは難しいため、代表的なことに絞ってお伝えします。
 

自宅

庭や建物の清掃や換気、土地や建物に関する書類の保管、室内リフォーム、固定資産税等の支払いなどをすることになります。
 
親の自宅が遠方で定期的な管理が困難なときは、不動産を管理してくれる会社へ有料で委託することもできます。依頼する内容にもよりますが、月額5,000円~15,000円程度です。
 
なお、固定資産税都市計画税は、信託した翌年から子の自宅に納付書が届きます。信託した現預金から支払いましょう。
 

借地

地主へ地代を支払うこと。また、大掛かりなリフォームや建て替えのときは地主へ事前相談と、必要な承諾料を支払います。
 

アパートなどの賃貸不動産

アパート等は、以下の3つの状態で行うことが異なります。
それぞれ代表例な項目を挙げますので、ご参考になさってください。
 

<空室募集>

募集条件を決める、入居審査、部屋の引渡し、空室対策が必要な時は実行する

<入居中>

賃料の入金確認、滞納時の督促、上下階の騒音など苦情対応、設備修理交換、更新契約

<退去>

退去時の立会いや部屋確認、敷金の精算や返還、原状回復工事の発注
 
アパート等の賃貸不動産の管理には専門知識が必要となることが多いため、不動産管理のプロである管理会社やリフォーム会社などと連携しながら、運営上の判断をしたほうがよいでしょう。
 

 ③信託不動産の売却

家族信託した不動産を売却するとき、子は次のようなことを行う必要があります。
 

自宅

売買の価格査定、売却方法を検討し決定する、売却を依頼する不動産仲介会社の選定、土地の測量、建物内や敷地内にある私物撤去、登記識別情報通知(登記済み権利証のこと)など必要書類の準備、売買契約の締結、売買代金の受領、不動産の引渡しなどです。
 
不動産を家族信託していますから、売却の意思確認は子に対して行われます。
親に対しては行いませんので、もし認知症等で意思判断能力が喪失していても売却することができます。
 

借地

売却に関する地主の承諾、名義変更承諾料の支払い、土地賃貸借契約の引継ぎなどです。
 

アパートなどの賃貸不動産

自宅・借地とは異なり、第三者(賃借人)が利用していますから、その情報も整理して引渡す必要があります。
 
賃貸契約書や入居者データ等の引継ぎ、物件管理上のデータの引継ぎ、賃貸状況の一覧表の作成と引渡し等が必要です。
 

 ④信託の報告等

不動産の管理や売買だけでなく、子は受託者として信託状況などをまとめたり、報告したりする義務があります。
 

(1)1月から12月分の収支を信託計算書にまとめ、最寄りの税務署へ翌年1月中に提出すること
(2)委託者等から信託に関する報告を求められたときに、収支等の報告を行うこと
(3)委託者と受益者が異なる場合や、委託者死亡による信託終了時などのとき

 
(1)信託の計算書:税務署のホームページより
(3)受益者別調書:税務署のホームページより
 
上記の(1)~(3)は必要なことですから、(1)は税理士、(2)と(3)は司法書士や家族信託に詳しい専門家がサポートすることが大切です。
 
 

 家族信託契約後に親にやってもらいたい
 3つのポイント

ポイント
 
子に託したあとも、親が元気でいるうちはできることがあります。そのことを専門家からお伝えし、サポートしましょう。
 
家族信託後に親がやるべきことを、3つの項目に分けてお伝えします。
 

 ①管理運営サポート

親が不動産を管理する上でこれまで経験してきたことを、子に伝えることです。
管理会社との付き合い方や、原状回復リフォームは相見積もりを取ることなど、管理運営についてサポートしてあげましょう。
分からないことばかりで不安な子も、教えてもらうことで安心感が増します。
 

 ②財産の追加信託

家族信託はあとから現預金を追加することができます。これを一般的に追加信託と呼んでいます。
 
家族信託した時は予定していなかった修繕工事等が発生したため、お金が必要になることもあります。このときに、現預金を追加信託してあげられるのです。
 
また、不動産も追加信託をすることができます。
 

 ③信託の運用判断

家族信託をして子に託したけど、子の受託者としての能力や素質に問題等があるというとき、親は次のようなことができます。
 

(1)受託者を変更する
(2)受託者の行動に監視役を付け、子が独断でできないようにする(監督人といいます)
(3)家族信託をやめる

 
財産を管理するのは、実際にやってみると大変なことばかりです。
 
ここまでお伝えしたように、家族信託契約を締結したとしても、お願いしない限り誰かが勝手に名義変更をしてくれるわけではありませんし、すぐに管理等をうまくできる受託者は少ないでしょう。
 
不動産を家族信託することで、親の認知症対策をしたいという願いは叶えられていますが、“信託後にやること”までしっかりと考えてサポートすることが大切ですね。
 
 
事例のAさんの話に戻りますが、弊社ではAさんの家族信託組成後の名義変更、信託不動産の管理サポートをいたしました。
 

(一例)
・管理会社や地主への連絡
・各種書面の内容チェック、必要に応じて作成
・アパートの管理状況やレントロール表などの作成
・毎年の家族会議での報告サポート(特にアパートの運営実態)

 

 
※弊社の『アパート安心パック』のパンフレットより抜粋。
 『アパート安心パック』の詳しい内容は下記バナーから。


 
 
弊社のサポートをお受けいただいたAさんからは、次のようなお言葉を頂戴いたしました。
 
不動産を家族信託すると、こんなにもたくさんやることがあっただなんて…。プロサーチさんには面倒なことをお願いしてしまったけれど、とても助かりました。今後も管理会社とのやり取りに関する相談や、アパート経営のこと、父の相続対策のことをお願いします」
 
 

 遺産相続コンシェルジュより

 
本記事のポイントはこちら。

・不動産を家族信託したあと、名義変更や管理、信託計算書の作成など、子(受託者)が行うことは多岐にわたる。
 
・親が元気なうちにできることは、追加信託や子(受託者)のサポート、家族信託を継続するかどうかを判断すること。
 
・家族信託後にスムーズに『親の財産の管理や処分』を行えるお客様は少ない。専門家は実務上の財産管理移行の手続きをサポートすることが大切。
 
・家族信託はあくまでも手段のひとつであり、ゴールではない。信託組成後のアフターフォローが重要である。

 
これまでのメルマガでも何度もお伝えしてまいりました通り、家族信託はあくまでも手段であり、ゴールではありません。
家族信託を組成した後も、お客様と長くお付き合いをさせていただくことになります。
信託不動産のことはよく分からないからと連絡もせず、放置してはいけません。
 
家族信託と不動産に詳しい不動産会社と連携し、そして、税務や法務の各専門家もチームとなり、お客様をサポートすることが重要です。
 
よく家族信託セミナーでもお伝えいたしますが、家族信託は財産凍結対策のためだけでなく、親と子の財産トレーニング(相続事業承継)にこそ最大の効果を発揮します。
このように家族信託組成をゴールにせず、継続的にお客様のアフターフォローをしていきましょう。
 
プロサーチでは、専門家の方からも不動産の家族信託の相談を承っております。事前の不動産調査、信託組成後のフォローなど幅広く対応いたしますので、お気軽にお問い合わせください。(記:松尾企晴)
 
 

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この記事の監修
プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)

20歳のとき母方の祖父母を火事で亡くし、祖父祖母の相続では兄妹間の争族に発展。『またいつか』ではなく『すぐにでも』行動しなければならないことや、どれだけ仲の良い兄妹でも揉めることを痛感。
会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から信頼を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。

 

 

 

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