テレビアンテナの越境で土地の価値が下がる!?不動産売買は越境物との闘い

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テレビアンテナの越境で土地の価値が下がる!?不動産売買は越境物との闘い写真
2020.9.30

 
今回のメルマガは、不動産取引における問題児とも言うべき「越境物」によって、あわや契約解除!という危機に直面したお話です。
 
※越境物:『所有地へ入ってきている隣地の壁や樹木等の物』もしくは、『隣地に入ってしまっている所有地の壁や樹木等の物』
 
 

今回のポイント
・軽微な越境物でも甘く見ないこと。売買価格が下がったり売買契約解除になったりすることも
・一方的な要求の押し付けでは解決しない。糸口は相手の不安や悩みを聴くことから
・不動産売買は大抵スムーズに進まない。問題を早期発見することで安心確実な取引になる

 

テレビアンテナで土地の価値が下がる!?

不動産の相続対策で弊社へお越しになられた相談者Aさん(83歳)。

【不安や叶えたいこと】
・ご自宅の他に、空き家状態の築50年の戸建てとその隣地に貸家を持っている
・空き家は5年以上利用していない。朽ち果てそうで人に貸せる状態ではない
・子ども二人に負担がかからないよう、財産を遺してあげたい
 
何度か打ち合わせをし、お子さんのご希望もヒアリングした結果、「空き家を売却」して、小口化不動産へ組み替えることにしました。(面倒な管理からの解放、相続税対策の効果も◎)
(※小口化不動産について、詳しくは こちらから)
 
早速、空き家の詳細についての調査をスタート。
現地調査を兼ねてAさん所有の貸家(売却対象の隣地)に住む賃借人さんのところへご挨拶に行きました。
お話を伺うと、なんと貸家建築当時から40年住んでいるご夫婦(80歳)で、「私たちはこの家と生活環境がとても気に入っている。このままずっと住み続けるつもりなんです。お店(クリーニング店)も順調ですし」と笑顔で語ってくれました。
 

 
その後、売却するために必要な調査や土地境界測量が終わり、測量士さんから対象地に被越境(隣地から所有地へ越境)している物があると報告がありました。
 
その越境物とは、『貸家の屋根にあるテレビアンテナの一部』だったのです。
このアンテナは、現在は使用していないアナログテレビのものでした。しかし、この被越境状態のままでは、越境している部分の土地を除いて建築しなければならず、つまり建築出来ない土地部分が生じるため、結果として土地の価値(価格)が下がってしまうことになります。
※買主さんに確認したところ、被越境を解消できない場合は、その部分を分筆し売買対象から除外することと、価格を下げて(2坪減少:200万円ほど)対応するとの返答がありました。
 
なんとかこのアンテナを不動産の決済日までに移設してもらう他ありません。
契約上、買主さんには越境物解消の合意が取れた証として『越境物解消の覚書』を提示する必要があるため、売主Aさんと一緒にご夫婦のもとへ伺うことに。
 

覚書にサインしたくない!?

私から賃借人のご夫婦へ越境物などの事情を説明すると、「もう使ってないから移動してもらって構わないよ!」と快いお返事が!もう問題は解決したと内心ホッとしていました。
用意してきた覚書を手渡し、来客があるから後日取りに来てほしいと言われ、(本来はその場でもらうことが大切なのですが…)お店がお休みの週末に改めてお伺いすると約束しました。
 
しかしその日の夜、ご夫婦のご主人のほうから私にお電話がありました。
「今日の件なんだけど、やっぱり覚書にはサインできない。正直、隣地のことなんて私たちには関係ない。アンテナもそのままにしておいてほしい」と言われ、私の頭の中は、(え?この短時間に一体何があったんだ?)と困惑。
 
一呼吸おき、ご主人へ「アンテナの移設はこちらで対応するので費用や手間の負担がない」こと、「このままだと契約が破談となり、(貸主でもある)Aさんが困ってしまう」ことをお伝えしても、返ってくる答えは変わりませんでした。
金銭を要求されることもよくあるのですが、そうではなく、理由を伺ってもただ「私たちには関係ない」と言うばかりで電話を切られてしまい、その場では真意が掴めませんでした。
 

ご夫婦の真意をついたヒアリング


後日、真意を確認するためご夫婦のもとへ伺い、とにかくお話を聴くことに徹しました。
私が行ったヒアリングの内容は以下の通りです。
 
 

―――ヒアリング内容―――

【貸家や賃貸条件に不満があるのでは?】

私 「住んでいる貸家や周辺環境についてどんなところが好きですか?」
夫婦「建物も愛着があって風通しも良く、古くなった今でも気に入っている。感謝だよ」

 ⇒どうやらここは問題ではない


私 「住んでいて何か困っていることや不満に思っていることはありますか?」
夫婦「貸主のAさんも立ち寄らなくなって、交流が少なくなった。建物も相当古くなってきたので、立ち退きをさせられる不安はあるんだよ」

 ⇒立ち退きを迫られるのでは?という不安を抱えている


【書面締結へのアレルギーがあるかどうか】
私 「今回のような覚書へ署名捺印することに抵抗はありますか?」
夫婦「以前住んでいた貸家で、内容をちゃんと理解せずに覚書を結んだことがあった。それを盾に立ち退きを余儀なくされたことがあって」

 ⇒覚書の締結に応じたばかりに失敗した苦い過去がある


他愛もない話から始まり見えてきたのは、過去の賃貸トラブルでした。
40年前に当時の賃貸人と不動産業者から無理な立ち退きにあい、泣く泣く退去した経緯があった、私の説明を聞くたびに当時の記憶がよみがえり、立ち退きを迫られるのではと拒絶反応を起こしてしまっていた、とのことでした。
最近では現在の賃貸人であるAさんとの交流もほぼ無くなり、貸家について今後どのようにするのかなどの考えを確認できず、いつ立ち退きを迫られるのだろう!?と心配していたようです。
 
ご夫婦には「今の場所に住み続けられるようにしたい。覚書で失敗したくない」という想いがあったことから、あの夜の電話に繋がったのです。
 
すぐさまAさんと買主さんと協議し、ご夫婦に配慮した内容で覚書を作成することにしました。
『本書は、ご夫婦(契約者名)との建物賃貸借契約に対し一切影響しない』旨の一文を入れただけでしたが、ご夫婦は「これなら立ち退きの心配はいらないね」と覚書にサインをしてくださいました。
 
結果、売買価格を下げることもなく空き家はスケジュール通りに売却でき、もちろん、テレビアンテナの移設も完了しました。
 

おわりに

 

今回のポイント
・軽微な越境物でも甘く見ないこと。売買価格が下がったり売買契約解除になったりすることも
・一方的な要求の押し付けでは解決しない。糸口は相手の不安や悩みを聴くことから
・不動産売買は大抵スムーズに進まない。問題を早期発見することで安心確実な取引になる

 
今回の件では、賃借人ご夫婦へ一方的にアンテナ移設の要求をし続けても解決しなかったと思います。解決どころか関係が悪化し、修復不可能な溝ができてしまったかもしれません。
不動産売買シーンでは、常にその相手の立場に立った説明やヒアリング、提案を心掛けることがとても重要です。
 
その他にも、できるだけ早期に、『時間がかかるが解決できる』『お金がかかるが解決できる』『解決できない問題がある』など、その問題がどのような状態にあるかを把握し、解消に向けたアクションを起こすことが求められます。
とても根気のいる作業ですが、お客様が安心して、不動産を確実に売却や活用等するために必要なことなのです。
 

遺産相続コンシェルジュより

安心確実な売買をするためには、できるだけ早期に問題を発見し対応することが必要です。
 
・不動産は専門外だけど、お客様が不動産で困らないようにサポートしたい
・売却だけではなく、有効活用など公平な視点で調査やアドバイスをして欲しい
・この土地で何ができるのか?いくらで売れるのか?お客様からの質問に答えたい
など、このようにお考えの専門家の方もいらっしゃると思います。
 
プロサーチでは、お客様や専門家の皆様のこのようなお悩みを解決するため、【現状把握サービス】を提供しております。

ご興味やご質問のある方は、メール(staff@pro-search.jp)にてプロサーチへお問い合わせください。(記:友重孝一朗)

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